2016年12月30日金曜日

『驚きの介護民俗学』 六車由美

みぃです。
知り合いの介護福祉士さんから興味深い本をお借りしたのでご紹介します。

本書は民俗学の視点から介護を論じた異色の本です。
著者の六車由美さんは大学で民俗学の研究をしていたのですが、大学を辞め、いまは介護職員として働いておられるそうです。

まったく違う分野にいた人間から見ると、その業界では常識とされていることに疑問を感じることがしばしばあると思います。
本書でも筆者が感じた違和感がいくつか挙げられています。

例えば“傾聴”ですが、一般には聞き手側の姿勢や態度を指す言葉であり、非言語的コミュニケーションを重視しつつ相手の気持ちを察する技法をいいます。
筆者は、逆に話の内容が軽視されているのではないかという問題提起をしています。
民俗学の調査のように、語られる言葉に真摯に向き合い、その方の境遇や生き様を知ることで、認知症に伴う“問題行動”にも理由や解決策が見つかることがあったそうです。

勿論、介護の現場には余裕がないことも実体験として語られています。
筆者も業務に追われて素直に利用者さんの話に「驚けない」時期があったそうです。
現場の業務の遂行と、知的好奇心とのバランスをとるのは非常に難しいようです。

私は介護の専門家ではありませんが、はりきゅうマッサージは治療時間が長いので、自然と患者さんとの会話が多くなります。
会話から治療のヒントが見つかることもありますが、特にご高齢の方からは人生の先輩として様々なことを教えていただいています。
戦争のお話、地元の歴史や風習、おせち料理の作り方や野菜の育て方などなど、挙げればきりがありません。
そういった患者さんとのふれあいはとても楽しく、また日々感謝をしています。

一人一人の人格に敬意を払い、あくなき好奇心をもって相手の人生を理解しようとする筆者の姿勢は本当に素晴らしいと思います。
介護や民俗学に関心のない方でも引き込まれてしまう内容の本ですので、ぜひ一度手に取ってみてください。